にほんご ちゃん

先生は違いを求められがち

インドの日本語教育事情

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インドは広く、民族・言語・経済状態が地域ごとに大きく変わります。わたしがいる首都デリー周辺の日本語教育事情(2020)について、ほぼ所感ですが書いてみようと思います。

 

インドの公用語憲法ヒンディ語となっていますが、21の公的言語も明記されています。また州毎に「州言語」が制定されており、とても複雑。都市部では英語ができる人が多いですが、所謂「ヒングリッシュ」で、イギリス英語なんだけど発音がカスタマイズされており私たちが学校で習ったアメリカ英語は遠からず、と言った感じです。

 

 

首都デリー近郊の日本語教育機関

デリーと近郊都市グルガオン ・ノイダには100近い日本語学校があります。

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デリーって首都なんですけど実はかなり北にあります。

コルカタ(旧カルカッタ)・ベンガルール(旧バンガロール)・チェンナイ(旧マドラス)・ムンバイ(旧ボンベイ)などの大都市には大学や民間学校、技能実習生研修所などさまざまな日本語教育機関があります。

 

もちろんピンキリです。首都デリーには半官半民のMOSAIという学校があり、デリーにおけるJLPTなどはこの学校が取り仕切っています。

こちらの学校、進級できる人数が限られており上級に進むにつれて少数精鋭になっていいくという、かなりシビアな学校。デリー近郊の民間学校にはこのMOSAIで進級できなかったんだろうなという学生が多く流れてきます。

 

また日本語センターという老舗の学校があります。こちらは日本人の那須川先生という方がまだ全く日本語人気のなかった時代から続けてこられた学校です。

 

この2校が有名どころですが、徹底した直接法の学校や大人数クラスで学費が安い学校、毎月コースをスタートさせる学校や社会人の夜間クラスがある学校など、それぞれの学校が特色を見せています。

国際交流基金のオフィスもありますし、青年海外協力隊から日本語教師が派遣されたりと、この数年で日本語教育は注目されています。

 

 

先生について

文法訳読法が主流

日本では「教えない教え方」や「コミュニカティブメソッド」など聞いて久しいですが、インドでは未だに文法訳読法が主流です。

意味はなんですか?」が最も多い質問で「どのように使うか」はほとんど教えられません。

学校のテストでも「日本語→英語・英語→日本語」の翻訳の問題があり、ヒンディ語ならわかるけどなんで英語?と頭を傾げたものです。

後にも述べますが、ここでの日本語教育とはイコール翻訳の勉強なのです。

 

また文法訳読法なので当然間接法であり、先生たちも正直全然話せません。N3に合格していても会話はN5レベルの先生なんてのはザラです。

会話の授業を頼まれた時「この文法を使って会話をしてください」と言われ???となりました。

 

象徴的だったのが、みんなの日本語の練習Cと会話の使い方。

ただ読んで、先生が意味を説明。以上。

この練習Cや会話って色々できるところなのにと驚きました。会話の授業自体にとてつもない憧れを持っているのは見て取れるのですが、どうやったらいいのか先生自身が知らないという状態です。

 

教師養成

日本語教育能力検定試験日本語教師養成講座。ありません。

JLPT合格イコール先生になれるという日本では考えられないシステムです。

国際交流基金が開催している養成講座を受講した先生はごくわずか。あとはJLPTの実績で採用します。

「は」と「が」の区別ができない先生が初級教えてるのもザラです。

先生たちも自分が受けるJLPTの勉強はしますが、ティーチングスキルについて勉強しているインド人の先生は見たことないですし、教え方を相談されることもありませんでした(単純に答えとか意味とかはすぐ聞いてくる)。

 

わたしたちと「教職」の概念が違うからか、N5合格しただけで学校を開く人もいると聞きました。逆にすごいですよね。これも合格イコール教えれる、なんです。

わたしは合格したので教えることができます」。何度も聞きました。

ただここにはカーストという文化も大きく関係しているのかもしれません。教職=人を導く仕事は誰でもなれるわけではないのだと思います。逆にそのカーストにいる人はJLPTを取れば免許よろしく教職につけると考える人もいるのかと。

 

またスタンダードがなく、アイディアの盗作が常態化しているからか、多くの学校が閉鎖的です。実際見学を断られた学校もあります。

対して日本人がオーナー若しくはマネージャーを勤めている学校は授業のフィードバックを求められたりとオープンです。

私が勤めていた学校もインターンに授業見せてあげてと頼むと「ここで働くかわからん奴に見せるのはいやだ。真似される」と言われました。正直、真似されるような陳腐な授業を君はしてるのか?と思ってしまいましたが。

 

学生について

日本語を学ぶのは大きく分けて大学生と社会人です。

インドの大学制度がよくわからないのですが平日午前週3回のコースには大学生が多く参加しており、いつ大学行ってるんだ?といつも思います。

そして社会人は日系企業で働く、あるいは働きたい人たち。

JLPTの受験者構成比を見るとデリー近郊は学生の割合が多く、東部プリーや南部バンガロールの受験地では社会人比が高いです。

 

薄い来日志向

インドで教えて一番驚いたのはこれです。15人ほどのクラスで聞いてみても日本へ行きたいと答えるのは1人ほど。旅行でなら行きたいが半数程度。なんなら日本へ行きたいと思わない学生すらいます。

じゃなんで日本語勉強してんの?と聞くと「日本にはいきません。インドにある日系企業で働きたいです」。

じゃあ日系企業でなんの仕事したいの?と聞くと「通訳と翻訳の仕事がしたいです」。

ですから未だに文法訳読法が主流なんですね。

大学などごくたまーに「日本のアニメ&漫画好きっス!」みたいな子がいますが、日本の文化に興味がある学生はわずかです。

 

 

カンニングも努力のうち

百歩譲ってJLPTなどの検定ならともかく、簡単な小テストなどでもカンニングは横行します。

なぜカンニングをするのか問うと「わからないから」とまるで禅問答のような答えが返ってきます。

また驚いたのがカンニングした答えが正解だとガッツポーズ。「いや、それあなたの答えじゃないから」と少しくらい背徳感を感じてほしいものですが、喜びます。

 

見る側もですが、答えを見せ合ってるんですよね。

見せる側に問うとっているから助けました」とまたも禅問答

つくづくこれも勉強の一つの手段なんだと思わされました。

 

一度カンニングをさせないようにスマホや教科書を別室に移動させたら「厳しすぎる」とクレームがきました笑

 

そのカンニング横行が知れ渡った結果、入管がJLPTやNAT-TESTを全く評価しないという方向に傾きつつあります。留学の査証審査の際、JLPTやNATの項目がすべて無視されるというケースが何件も出ているようです。これじゃビザが出るかどうかは運次第ということになり、本当に努力している学生にはなんとも酷な話です。

 

 

これは 

ここに書き連ねたことは、同じインドでも場所・時期・立場が変われば全く違うものになるでしょう。あくまで私が見た光景のいくつかを切り取ったものであります。

そう思うと、同じように重なる光景はどこの教育機関でもあるのかもしれません。

もしご自分が所属されてる場所に疑問や不安を感じている方がおられたら、ちょっと他の学校はどんなんかしら、海外ってどうしてるのかしら、と箸休め程度に読んでいただければと思い書いてみました。

考えれば考えるほど、場所や方法が変わっても私たちがすることの真ん中は、どこも同じなのだと気づかされるばかりです。