にほんご ちゃん

先生は違いを求められがち

複合動詞あれこれ

f:id:giminishiki:20210519225919j:plain

複合動詞あれこれ

 

中級から熱心に上級を勉強する学生を苦しめる様々な日本語彙たち。

オノマトペはその急先鋒ですが、伏兵として学生たちを襲うのが複合動詞です。

アジアの各言語には広く見られるものですが、日本ではその数の多さと表現の豊かさが群を抜いています。

 

加えてこれら複合動詞が中級以上の語彙の教科書にまるで進出語彙として登場するので「どこかで聞いた気がする動詞なのになんかくっついてる!」と学生たちを混乱させます。

ここでは国立国語研究所のホームページをもとに、上級クラスで教えてた複合動詞の捉え方をまとめました。

国語研のホームページはこちら。

db4.ninjal.ac.jp

 

(レベルとしてはN1でやるのがちょうどいいかなと思いますが、語感が良い学生や例文から理解できる学生でしたらN2でもいいかもしれません。間接法で教えるならN3でも問題ないかと思います。)

 

 

複合動詞のパターン

 

1:VV

 

複合動詞という名前がぴったりなのがこのパターンです。

2つの動詞が本来の意味を保っており、どちらの動詞も述語になり得ます。

この場合の多くはVてV、VながらV、VなのでVで読み取ることができます。

語彙力がある学生なら推察して意味を読み取ることができるでしょう。

 

振り落とす=振って、落とす

食べ歩く=食べながら、歩く

書き溜める=書いて溜める

歩き疲れる=歩いて、疲れる/歩いたので疲れる

 

 

2:Vs

 

このパターンは学生たちを大いに苦しめます。

複合動詞と言いながら後項動詞はほとんど意味を持ちません。ですからVVの時のように「VながらV」など分割して読むことができないし、当然後項動詞は述語にはなれません。

 

降り注ぐ→降って、注ぐ?

咲き誇る→咲きながら、誇る?

書き殴る→書いたので、殴る?

 

この場合、後項動詞は前項動詞を修飾する、と理解できます。

 

降り注ぐ=(やかんなどで)注ぐように、降る

咲き誇る=誇らしげに、咲く

書き殴る=殴るように、書く

 

「込む」の話

語彙の教科書でもよく出てくる「込む」。この言葉は「中に/へ」のイメージの言葉で「どこに」という場所を持つ場合はVV型で理解します。

払い込む=銀行口座の中に払う (銀行口座が場所)

飛び込む=飛んで中に入る   (プールや電車などが場所)

もう一つの「込む」のイメージ「そのまま動かない」というイメージの時は前項動詞を強調するVs型として理解できます。

考え込む=考えて、そのまま動かない

思い込む=思って(その思ったことが)そのまま動かない

 

 

「去る」も同じようにVVとVsの使い方があります。

走り去る=走って去る VV

葬り去る=全く無いように葬る Vs

 

Vsで使う後項動詞は本来の語彙より広くイメージ的に使われるので学生にとっても得意不得意別れるところですね。

 

 

 

3:pV

 

このパターンもVsと同じように学生を苦しめます。

これは前項動詞が意味を失い接頭辞のような役割を果たしているパターンです。2のVs型は修飾のような修飾ではなく、ほとんどの場合が強調する役割です。

 

差し迫る≠差して、迫る?迫るように、差す?

押し通す≠押しながら、通す?通すように、押す?

ひた隠す≠ひた?ながら隠す?

 

これらは全て後ろの動詞を強める役割であります。

意見を通す、より、意見を押し通す、のほうが強い言葉になりますね。

 

 

また、複合動詞でよく登場する「差す」もVVとpVどちらにも登場します。

「差す」単体で使うことはほとんどありませんが本来の意では「手を前に出す」動作です。これがわかるとVV型は理解しやすいですね。

 

差し出す=手を前に(出して)渡す

差し迫る=(すぐ間近まで)迫っている

 

まとめ

 

これ以外にも「思い出す」「落ち着く」のように一語として定着している語も

ありますし、例外もあります。

 

Vs・pVでよく使われる動詞は中上級の語彙の教科書には各出版社載っています。

その授業の際にちょっと話してみると覚えるだけでなく学生の推察力の手助けになるかもしれません。