不・未・無・非-使い分けのためのイメージ-
不・未・無・非 -使い分けのためのイメージ-
日本語の試験で必ず見かけるいわゆる「語形成」の問題。
たとえば、JLPT N1の教科書から。
このソースは、香辛( 味 料 剤 )をたっぷり使っているから香りがいい。
この語形成、文法や語彙がかなりできる学生でも苦戦します。
ここでは学生を悩ます4大否定漢字の特徴をまとめました。
不(ふ・ぶ)
否定の漢字の代表格「不」。
これは後ろの漢字語彙を「~じゃない・~しない」と打ち消す時に使われます。
英語で置き換えるとNOT~。
不注意:注意しない・していない
不信 :信じない
不完全:完全じゃない
不透明:透明じゃない
未(み)
同じく否定の漢字「未」
この漢字は「未だ(まだ」と読めることからもわかるとおり、
「今はまだ~ない」という時に使われます。
また「今はまだ」なので、「今後かわるかも」という意味を含みます。
未完成:今は完成していない(今後完成するかも)
未承認:今は承認して・されていない(この後承認されるかも)
未定 :今は定まっていない(この後定まるかも)
無(む・ぶ)
現在の否定「未」に対応する部分もある「無」
この字は「不」と混乱しやすく、学生から「なぜ無ですか、なぜ不ですか」と質問されがちです。
この漢字は「ここにない・今ないし、これからもない」です。
後ろの語彙の否定の「不」とは少し違いますね。
また「今後かわるかも」の「未」とも違います。
英語にすると「無」のイメージはNo Exists。
無関心:今は関心がない(これからもない)
無礼 :今は礼節がない(これからもない)
無報酬:今は報酬がない(これからもない)
無意味:今は意味がない(これからもない)
例えば「無報酬」ですが、これを「不報酬」とするとどうでしょう。
「報酬じゃない」になり、意味が変わってしまいます。
「無」のイメージは「~じゃない」ではなく「~がない」ですから、ここで「不」と使い分けるといいかもしれません。
非(ひ・ぴ)
これもまた「不」「無」と混乱しがちな漢字です。
持ってる漢字のイメージとしてはかなり明確ですが、突然問題として出てくると回答として選ぶには勇気がいります。
この「非」、漢字の形を説明してあげると一気にイメージが具体的になります。
この字は鳥の羽です。鳥の羽は当たり前ですが、皆同じ方向に向かっています。逆らっているものはありません。「羽」という字を見ても同じ方向を向いていますね。「非」、これは一枚だけ違う方向を向いている、他の羽に逆らっている羽です。
つまり、この漢字の持つイメージは「逆らう・背く」。
英語ではstill/remain/disobey。
もう少し具体的にまとめると、「本来あるべき正しいもの・正しいとされているものがあって、それから外れている」という時に使います。「不」の「~じゃない」より強いイメージがあります。
非常識:常識から外れた、背いた状態
非正規:正規から外れている
非効率的:効率的から外れている
「非正規」は「良いとされている雇用形態の正規の範囲にない雇用形態」と読み解くことができます。「不正規」でも意味は通ってしまうのですが、「その範囲にないよ」という意味をもたすことはできません。
N3レベルでまだまだ英語に頼っている学生に使うと逆効果になると思い、英語は上級の学生にのみ使いました。N3途中の学生に英語を入れると、おそらく大混乱になるので注意が必要です。
おまけ
ここまで話してまだ時間や自分・学生に余裕があれば、こんな話をしてみるといいかもしれません。
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私たち日本人は第二次世界大戦(World War Ⅱ)のあと、大切な約束をしました。あの戦争で、おそろしい爆弾が日本に落ちました。たくさんの人が死んで、いまでも苦しんでいる人もいます。
もう同じことが世界中で起きないように、3つの約束をしました。
大戦のあと、世界の大きな国は核(nuclear)を作り始めました。でも日本はそれに参加しません。他の国が核をもっても、私たちは持ちません。
3つの約束は「三原則(principle)」。Nuclearは核。
〓核三原則です。
さぁ、ここには「不・未・無・非」どれが入るでしょうか。
他の国が「核はいい」と考えても、わたしたちはそれに賛成しません。ですからここには「非」が入ります。
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インドの学生にはこんな話をしました。
ガンジーのBloodless independenceは「無血独立」 と訳されています。きっと「インドの独立には今までもこれからも血は流させない」というガンジーさんの信念へのリスペクトを込めて「無」が使われたのかもしれないよ。
この話はどちらもYoutube大学か?ってくらいのテンションでやりました…
この授業をしたのは、まず語彙の授業が単調になりやすいから、たまには教科書じゃないことをやってみたかったというのが始まりでした。またひたすら暗記に走りがちな語彙を、パターンから推察する足場を作ってあげたかったというのも大きな理由の一つです。
もちろん例外もありますが「言葉ってたのしい」を伝えるクラスもたまにはいいかもしれません。