にほんご ちゃん

先生は違いを求められがち

インドの日本語教育事情ーオンラインクラス篇ー

以前インドの日本語教育について、倩と書かせていただきました。

 

詳しくはこちら。

nihongochan.hateblo.jp

 

今回はコロナ禍によるロックダウンからのインドのオンライン授業事情について、私が見聞きしたことを書いてみようと思います。

 

インドのインターネット事情

まずもって日本と大きく違うのはインターネット環境です。

 

観光地のホテルやカフェ、レストランはほぼ全てwi-fi完備。旅行で北インドを訪れた時は心底日本はwi-fi後進国だと感じたものです。ですがそれは観光地の話。観光客が訪れない街ではそこまでwi-fiスポットはありません。

 

次にスマートフォンについて。

インドでは日本と同じように巨大キャリアが3社あります。JIO・Airtel・Vodafone(なつかしい!)。

巨大キャリアの戦略で、日本と違って固定電話が普及していなかったインドでは数年前からスマートフォンが爆発的に普及しました。スラムに住んでいて明日のご飯がない人ですら、スマートフォンは持っています。

このスマホ、日本と大きく違うのは料金です。とにかく安い。そして前払い(プリペイド)が一般的です。

私が使っていたのは89日間2GB/日=約1,000円

物価を合わせてみても日本の感覚でおよそ4,000円です。

 

ですがインターネット環境は千差万別でした。

ある学生は「毎月200GBありますから」

また別の学生は「うちは高速インターネットがありません」

また別の学生は「母のでんわをつかっています」

同じような環境でオンラインクラスをするのはなかなか難しいのが現状でした。

 

駄目押しとして、wi-fiがあったとしても停電がしょっちゅう。そしてみんなが電話をつかっているであろう時間はかなり通信速度が遅くなります。

 

インドが他国と領土を争っている国境付近の州では、安全保障のために国がインターネットを遮断していることがあります。パキスタンと領土をあらそっているジャンムーカシミール州。政府の法案に反対したムスリムを中心とした非ヒンドゥー教信者が暴動を起こしたアッサム州。日本では国がインターネットを遮断するなんて考えられませんが、まだまだ情勢が不安定な国ではこういったこともあり得るのです。

 

ロックダウン

インドの日本語教育は対面授業が主流です。もちろんビジネスとしてオンラインクラスを展開している学校もありますが、大半は対面授業です。

今回のコロナ=ロックダウンにより、期せずして日本語学校はオンラインクラスをしなければならない状況になりました。

(日本の緊急事態宣言どころではなく、ロックダウン下では政府から学校をクローズするよう御触れが出て、警察が取り締まりをしていました)

ちょうど7月のJLPTにむけたコースが半分を終えたあたりでのロックダウンです。

学費を払い終えていても、未払い金があったとしても引き下がるわけには行かない時期でした。

他校の先生たち(日本人)に聞いてみたところロックダウンがいつまで続くかわからないので様子見という学校がほとんどでした。

が、結局ロックダウンの先が見えずほとんどの学校が(とりあえず)オンラインクラス

を開始しました。

 

私はというと、学校担当していたプライベートクラスが3つありました。2人はオンラインクラスを、1人はインターネットがないということでオンラインクラスはなしになりました。

元々対面授業でN3、グループクラスよりぐっと距離が近い学生だったのでオンライン授業は問題なくコース終了することができました。

 

オンラインクラス

オンラインクラスをせざるを得ない状況になってインド人の先生たちは困ったと思います。

さきのブログで書きましたが、インド人の先生は「教える勉強」をしていません。

教え方は自分が習った先生の影響を大きく受けます。学生は様々な先生に習うことを嫌います。教える立場になっても他の先生の授業見学などしません。

つまり教え方にレパートリーがない先生がほとんどです。

 

色々な考え方がありますが、オンライン授業は対面授業とはちがう準備が必要です。

それほどPCを使いこなせない先生たちがたとえばZOOMのホワイトボードをつかって日本語をタイピングしてカーソルを動かして説明する、これができない先生は多いでしょう。

まえもってスライド(のようなもの)、教科書データなどを準備しておかなければなりません。ですが、インド人の先生は授業の準備をしません。

(授業の準備の是非は別の機会に。ただ私が出会った日本人日本語教師で準備をしない人は1人もいません。同じ課をやるにしても、初級であっても必ず準備をします。先生としてではなく、在外邦人の副業として先生をやっている人で準備をしない方に出会いましたが、授業が成立して学生が満足しているならビジネスとして正解ではあると思うので何がいいかはまた別の話)

 

授業の90%先生が話すというのが通常のスタイルです。これをオンラインでやるとどうなるか。想像に硬くないでしょう。

双方向性をもたらすビデオ会議ソフトなのに、先生が延々喋っていては対面でも眠いのにオンラインではかなり辛いものになるでしょう。

 

この記事を書いている7月現在、デリー近郊でオンラインクラスをやっているのはおそらく3校のみ(ロックダウン前には70以上あったとか)。日本人が経営している学校と半官半民の学校です。

そのうちの1校はやはりオンラインクラスに学生が半分もきておらず続けるのがしんどいと言っていました。

前のコースの学生はともかく、通常7月から始まる新コースの集客はどこもかなり苦戦している様子です。

 

 

オンライン授業あれこれ

わたしは主にZOOMを使っているのですが、このソフトについても学生やスタッフがそれぞれ好きなことをいいます。

ZOOMはコロナをきっかけに一気に世界に広まりましたがお約束のように脆弱性の指摘がありました。しかしこれについてはニュース記事をしっかり読んでパスワードを飛ばさずにおけば大して問題ないと判断できる内容です。

ですが「ZOOM=ヤバイ!」というタイトルだけで学生が大騒ぎ。ZOOM使用禁止の会社の通達を私に見せてくる学生まで現れました。

 

わたしが所属していた学校では、運営側がSkypeをゴリ押し。理由は開始ー終了時間がチャットルームに残るから。管理第一に考えるとそうなんですけど、先生たちの使いやすいは一切考慮されませんでした(笑)
「いやいや、IDとパスワード聞いておいて管理スタッフが授業やってる時間にみまわればいいでしょうが」と思ったもんです。

 

このオンライン授業のゴタゴタは準備期間なく始まったことがいちばんの大きな要因ですが、それでも今まで当たり前とされてきたインドの教育環境や教授スタイルを再考するきっかけになったのではないでしょうか。
様々な問題が見えたわけですが、これを可能性にインドの日本語教育がさらに発展することを願ってやみません。